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お客様の声
小さな角地に立つ山小屋のような住まい
新潟市江南区旧亀田町にある住宅街。
T字路の角地にS邸はちょこんと佇んでいる。
平屋の小さな建物はレッドシダーの外壁に包まれており、山小屋のような風情を感じさせる。
住宅は長方形の組み合わせでつくられるのが一般的だが、S邸は敷地形状に沿うように、コーナー部分が45度カットされている。
角が取れたようなフォルムは、街に対して優しい表情を見せてくれる。
角を曲がりぐるりと回り込んだ場所は、Sさん夫婦の2台の車が止められた駐車スペース。
その奥に入口がある。
「結婚して6〜7年程は、秋葉区にある私の実家で暮らしていました。やがて自分たちの家を持とうということになり、土地探しを始めたんです」とご主人。
家を建てた38坪の角地は、奥様がインターネットで見つけた土地。
仕事帰りに立ち寄ってみると、向かい側には公園の生垣や桜が眺められ、角地であることも好印象だったという。
二人で暮らせる最小限の平屋を計画
土地探しと並行して、どの工務店に依頼するかも絞り込んでいたSさん夫婦。
「自然素材を使った家づくりをしているところがいいねと夫婦で話していて、はじめは5社くらいを候補に挙げて検討していました。会社によっては自己主張が強過ぎるところがあった一方、家造の若山さんにはそのような圧は全くなくて。北区にある展示場を見せて頂いたんですが、建物の雰囲気も良かったですし、建物と若山さんの雰囲気が一致していると感じました。
若山さんとなら、じっくりと話しながら家をつくっていけそうだと思ったんです」とご主人。
福祉用具の販売をする仕事をしていたご主人は、高齢者の家でバリアフリー工事をすることもあり、家を建てるなら平屋がいいと決めていた。
「私たちは2人で住める必要最小限の大きさの家でいいと思っていましたが、小さな土地なので実際に平屋が建てられるのかを心配していました」と奥様。
家造のマネージャー・若山拓郎さんに相談をすると、敷地調査をした上でどのような家を建てられるか、ゾーニングの図面を作成してくれたという。
「当初は土間を設けたいというご要望がありましたが、土間をつくると他のスペースがかなり狭くなってしまうことが分かりました。そこで、改めて詳しく要望を伺い優先順位を整理した上で、設計顧問の水澤悟さんにバトンタッチをしました」と若山さんは話す。
杉の香り漂う、自然素材に包まれた空間
若山さんの的確なゾーニングを元に、改めて水澤さんがSさん夫婦にヒアリングをして計画を詰め、2017年11月にS邸は完成。どのように仕上がり、どんな暮らしを営まれているか中を見せてもらった。
まず、玄関ドアを開けるとふわりと木の香りが迎えてくれた。
床は杉の無垢材が使われ、壁や建具にも天然木が使われている。
白い壁はウッドチップと再生紙を使ったドイツ製のオガファーザーという壁紙だ。
コンパクトな玄関だが、コート掛けや小物を置く棚などが造作されており、使いやすくまとめられている。
格子付きの建具の先には廊下があり、右奥には水回りやキッチン、リビングをレイアウト。
廊下には猫のトイレスペースを確保するなど、わずかな空間も上手に活用されている。
一方逆サイドにあるのは7.5畳の寝室。
その内の3畳分は収納スペースになっているので寝室は実質4.5畳だが、その籠もり感がかえって眠るのにちょうどよさそうだ。
布で仕切られた収納スペース内には棚が据えられているが、こちらはご主人のDIYによるもの。
ホームセンターで板をカットしてもらい組み立てたという。
洗面台も造作で。職人の技がそこかしこに
寝室そばのトイレも杉がふんだんに使われた温かみある空間だ。
さらに奥の洗面脱衣室は、床・壁・天井が杉板仕上げ。
南面と西面には窓が切られており、日差しがよく入るコーナーは物干しスペースとして活用されている。
洗面台も天然木で造作されており、メーカー既製品にはない家具のような温もりがあふれている。
そこから後ろを振り返ると、左側にキッチン、正面にはリビングが広がっていた。
小スペースで実現した機能的なコの字型キッチン
コの字型の造作キッチンは、コンパクトでありながら使い勝手がいい。
「ほとんど移動をすることなく、ガスコンロや電子レンジ、ワークトップやシンクを使うことができるのが便利ですね」と奥様。
カウンター越しに隣のリビングが見渡せるが、リビング側からはシンクが丸見えにならないように配慮されている。
壁一面を彩るブルーのモザイクタイルは奥様のセレクト。木がふんだんに使われた空間をキリっと引き締めるアクセントになっている。
生垣と桜を借景にした連続窓があるリビング
キッチンを通り過ぎて奥へと進むと、一段上がったリビングに辿り着く。
ソファ側からは、外観からは想像できなかった広がりのある景色が目の前に現れた。
例年よりも早く咲いた桜が満開の花を湛えながら風に揺れている。
「この敷地は南側と東側に隣家があり、北側と西側に開いた土地でした。ちょうど道路の向かい側に公園の生垣や桜がありましたので、その奥行きのある景色を取り入れられるように、西側とコーナーに連続した窓を設けています」と水澤さん。
「道路側からの目線を避けるために床を一段上げ、さらに窓も30cm上げています。窓を30cm上げたことで、窓辺をベンチのように座れる場所にしました。コーナー部分を敷地形状に合わせて斜めにしたのは、最も無駄が出ないように敷地内に屋根を架けるためです」と続けた。
リビングは7.4畳だが、自然と目線が外の風景へ導かれる上に、勾配天井で頭上にも広がりがあることから窮屈な印象はない。
夏の西日を避けるため、西向きの窓を避けるのが一般的な考え方だが、水澤さんは景色を取り入れられるメリットや、Sさん夫婦の個性や価値観から西へ開く設計にしたという。
「人によって『心地よさ』というのは異なるものです。例えば、外からの目が気になる人だったら、窓の高さをもっと上げた方が快適に過ごせるでしょう。私がSさん夫婦と話しをする中で、この窓の位置や高さがお二人にとって最も心地よく感じられると考えて設計しました」と水澤さん。
「私たちが暮らしていた実家の部屋は、本当に西日が強かったんです。その経験があったからか、それと比べるとこの家の西日はあまり気にならないんですよ。広さもそうですけど、この家は全てが自分たちにちょうどいいなと感じています」とご主人。
毎日の晩酌がくつろぎの時間
部屋の中には結婚祝いにご主人の弟さん夫婦からもらったというアラジンストーブや、結婚してから買った堅木のテーブルなど味わい深い道具が置かれている。
ちょっとした空間には、ドライフラワーや写真家のポスター、版画作品など、ご夫婦のお気に入りのものたちが心地よさそうに並んでいる。
「前は家の中が暑かったり寒かったり居心地が良くなかったので、休みの日は出掛けることが多かったですが、今は家にいることが増えましたね。キャンプにもしょっちゅう行ってたんですが、今は『くつろぐなら家でいいよね』と思うようになりました。たまに焚き火をしたいなとは思いますが(笑)」とご主人は、暮らしの変化について話してくれた。
「私たちは二人ともお酒を飲むのが好きで、夕食の時はいつも晩酌をしながらごはんを食べています。テレビはつけずにゆっくり話しながら過ごすことが多いですね。毎日程々の量を飲む方が体の調子がいいので、休肝日はあえて設けないようにしています」と奥様。
トレイルランニングを趣味とするご主人は、近所を走ったり近場の低山へ出掛けたりもするという。
一方の奥様はウォーキングを習慣にしている。
日々のルーティンに運動を取り入れ、仕事に出掛け、夜はゆっくりと晩酌を愉しむ。
リズムが整った暮らしは、丁寧に選ばれた道具やしつらえからもうかがうことができた。
わずか15.8坪の1階に3.8坪のロフトがあるだけの小さな住まいだが、むしろ大らかな雰囲気を感じさせる。
ピカピカとした新しい物よりも年月を経た深みのあるものを好むご夫婦。
二人が暮らす家も着実に味わいを深め続けており、のんびりとした時間を愉しむ夫婦と住まいが見事に調和しているのが感じられた。
竣工から2年半近くが経ち、床の杉板がこなれた表情を現し始めていた。
S邸
新潟市江南区
延床面積64.74㎡(19.6坪)、1階52.32㎡(15.8坪)、ロフト12.42㎡(3.8坪)
写真・文/鈴木亮平(Daily Lives Niigata)